資料室 – 港湾運送の在り方に関する懇談会 » 地方港の規制緩和に関する意見 全国港湾労働組合協議会 議長 安田憲司

港湾運送の在り方に関する懇談会

2003年6月13日 

港湾運送事業の在り方に関する懇談会
座 長  杉 山 武 彦 殿

全国港湾労働組合協議会
議長  安 田 憲 司

地方港の規制緩和に関する意見

? はじめに

 私たちは、これまで地方港の規制緩和に反対し、その必要性はないと主張してきました。その基本的態度に変わりはありません。
(1) 2001年9月の米国同時多発テロ事件の発生以降、世界の港に保安対策が求められるようになりました。改正された「海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)が来年7月に発効するのに合わせ、国土交通省は港湾の保安対策強化をすすめています。規制緩和と保安対策強化は、矛盾する面を持っています。港湾の保安対策は国の責任でおこなわれるべきものです。港湾運送事業においては、規制を強化しなければならない面もあるのです。
(2) 日本経済は、コスト競争がデフレの進行を促進するデフレスパイラルに陥っています。このような状況で、さらなる規制緩和を行う必要はありません。仮に規制緩和の検討をするならば、景気の回復、企業体力の回復を待ってからでも良いのではないでしょうか。
(3) 日本港湾の相対的地位の低下は、アジアへの生産拠点の移動、日本での産業空洞化が原因です。港湾運送事業の規制緩和をおこなえば、日本港湾の国際競争力が回復すると考えるのは幻想です。まして、地方港は、釜山、香港、シンガポールなどと競争している訳ではありません。

? 主要9港の規制緩和の影響について

1 参入ならびに料金の状況
(1) 主要9港の新規参入は13件ですが、譲渡譲受がほとんどであり、港湾運送事業以外からの参入はほとんどありません。港湾運送事業者でないものが新たに参入しようとした清水港の事例は、基準の常用労働者を雇用するには最低でも2000万円の資本が必要なのに、資本金300万円の有限会社でした。港湾運送事業者の事業基盤の強化と言う運輸政策審議会の趣旨とは異なるものでした。このような悪質な事業者の参入を法的に規制するようにはなっていません。
(2) 国土交通省は、改正法施行後、通常の1.4倍の監査を実施しました。文書警告は65%に達しました。規制緩和以前より大幅に増加しています。にもかかわらず、料金変更命令、緊急監査制度は発動されていません。
(3) 船社・荷主の料金引き下げ圧力は強まりました。(全国港湾アンケート)

2 労働条件への影響
(1) 厚生労働省の屋外労働者職種別賃金調査によると、調査対象となっている港湾労働8職種の賃金は、2001年度は対前年比3.8%減、2002年度は3.6%減と2年連続して前年を下回っています。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、平均月間現金給与総額は、2001年度は前年比1.6%減、2002年度は2.4%減であり、港湾労働者の賃金の下落は他産業と比較して大きいと言えます。屋外労働者職種別賃金調査を主要9港と地方港に分けてみると、主要9港の賃金は、2001年度は対前年比3.0%減、2002年度は2.8%減、地方港の賃金は、2001年度は対前年比2.0%減、2002年度は2.4%減であり、主要9港の下落は地方港と比較して大きいと言えます。
(2) 厚生労働省の屋外労働者職種別賃金調査によると、調査対象となっている港湾労働8職種の労働時間は、2001年度は2,161時間、2002年度は2,239時間です。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、全産業の年間総実労働時間は1,831時間、2001年度は1,826時間です。全産業の労働時間は減少しているのに、港湾労働者の労働時間は増加しています。屋外労働者職種別賃金調査を主要9港と地方港に分けてみると、いずれも3.0%の増加です。
(3) ここで港湾労働者の賃金は高いと言う意見に反論しておきます。行政が提出する資料は、屋外労働者職種別賃金調査の港湾労働者の平均賃金(2001年度は403,857円)と毎月勤労統計調査の全産業の平均賃金(2001年度は351、335円)を比較して港湾労働者の賃金は高いと言っているのです。労働時間は考慮されていません。港湾労働者の月間労働時間は180.1時間、全産業の月間労働時間は152.6時間です。1時間あたりの賃金は、港湾労働者が2,242円、全産業が2,302円で、港湾労働者が60円下回っています。さらに、港湾労働者の平均年齢は43.3歳、全産業の平均年齢が39.9歳であることも考慮する必要があります。
(4) 主要9港においては、59%の港で労働強化になったと感じていま。(全国港湾アンケート)

3 雇用への影響
(1) 港湾労働者の雇用不安が増大しました。主要9港においては、50%の港で常用労働者が減少し、40%の港で非正規雇用労働者が増加しています。(全国港湾アンケート)
(2) 6大港における2002年度の日雇労働者の就労は月間平均約9,815就労です。常用港湾労働者の派遣は月間平均約1,542就労です。日雇労働者の就労は港湾労働法改正以前と比べて約1.35倍に増えています。「港湾運送事業者間で港湾労働者の融通が円滑にできるような仕組み」(行政改革委員会)としてつくられた港湾労働者派遣制度は機能しているとは言えません。

4 安全への影響
(1) 5月14日、横浜港においてコンテナ船でラッシング作業をしていた労働者が作業台から転落し、意識不明の重体になりました。この労働者は、違法就労の外国人労働者であり、一緒に働いていた同僚も出入国管理法違反で逮捕されました。
(2) 主要9港においては、40%の港で労働災害が増えています。(全国港湾アンケート)

5 結 論
(1) 主要9港における規制緩和を評価する場合に、何を基準に評価をするのかが問題です。規制緩和を推進した国土交通省がその基準を明らかにして、評価の叩き台を示し、懇談会の意見を求めるべきだと思います。
(2) 今回の主要9港における港湾運送事業の規制緩和は「失政」であったと考えます。港湾運送事業にストレートに競争原理を導入するのではなく、港湾運送事業の脆弱性を踏まえて一定の環境整備を行った上で規制緩和を実施すべきでした。その意味では「時期尚早」であったと言わざるをえません。
(3) 港湾運送事業とは、港湾管理者が所有する施設、設備を借用して荷役作業を行っており、行政改革委員会が指摘しているように「本来的に労務供給事業的性格を有する」のです。港湾設置を計画し、建設するのは港湾管理者です。港湾運送事業者はそのような与えられた環境で事業を営んでいるのであり、港湾の効率化、活性化を主体的に担う能力を持つものではありません。規制緩和の名の下にコスト削減のしわ寄せを港運労使に押し付けた結果となりました。
(4) 「港湾運送事業法の参入規制、価格規制が、港湾の効率化、活性化を阻害する要因となっている」(行政改革委員会)という認識から、主要9港において港湾運送事業の規制緩和が先行して行われました。しかし、参入規制、料金規制の緩和は、効率化、活性化を促進する要因にはならず、船社・荷主のコスト削減要求が港湾運送事業者の過当競争を促進し、港湾労働者の雇用不安、労働条件の低下を招いただけです。船社・荷主は、港湾運送の安定化に理解を示し、協力したとは思えません。
(5) 港湾運送事業の規制緩和によって、日本の港湾の国際競争力が向上したと評価できる材料はありません。港湾運送の効率化、活性化がすすんだとするならば、それは2001年4月、労使によるフル稼働の決断によるものです。港運労使は大きな犠牲を伴う転換期に立ち向かっているわけですが、港湾労使では解決できない先に述べた障害にぶつかっています。これ以上犠牲を押し付けるなら、ストライキでたたかわざるをえないと決意しているところです。また、効率化、活性化をすすめるには、港湾運送事業以外のコスト問題やCIQなど行政対応の問題が大きいことがわかってきました。フル稼働した場合の夜間、休日作業に伴うコスト増を誰が、どのように負担するのか、交代制を可能とする貨物量をどう確保するのかなどといったことが現実の問題です。関係者の協力によって港湾運送事業の環境整備をおこなう努力がなければ、フル稼働体制の意味はありません。
(6) 事業協同組合については、労働者保有基準を1.5倍にすることをクリアーすることに重点がおかれ、港湾運送事業者の事業基盤の強化という面では十分に役立っているとは思えません。事業の集約・協業化を図るにはより大胆な政策誘導が必要です。
(7) したがって、主要9港の規制緩和の評価と見直しおこない、環境整備を行った上で、地方港の規制緩和について検討すべきです。

? 地方港の規制緩和について

 地方港の位置付け、役割をどう見るか、セーフティネット対策はどうあるべきか、その他の課題をどう解決していくかなどについては、そのような議論が必要となった段階で意見を述べたいと思います。

? 検討課題とすすめ方について

1 港湾運送事業の「公共性」、「港湾運送の秩序の維持」という原則を忘れずに検討をすすめる必要があります。
2 港湾運送事業法、港湾法、港湾労働法、さらに制定が予定されている港湾保安法(仮称)などとの整合性を踏まえて検討すべきです。
3 2003年3月結論にこだわらず、十分議論を尽くすようにすべきです。
4 なお、港湾政策、国際ハブ港湾のあり方などに関する全国港湾の意見については、つぎの文書を参照していただければ幸いです。
 (1) 2002年8月13日 「港湾政策審議会港湾分科会中間報告への意見」 全国港湾、港運同盟
 (2) 2003年2月13日 「国際ハブ港湾のあり方中間報告への意見」 全国港湾

以 上